2025.04.30 その他

自治体DXとは?目的・課題・事例をわかりやすく解説!

近年、デジタル化の波があらゆる業界に押し寄せ、行政サービスの分野も例外ではありません。少子高齢化や人口減少、厳しい財政状況の中、地方自治体は限られた資源で住民サービスの質を維持・向上させる必要があります。

その解決策として注目されているのが「自治体DX」です。

本記事では、自治体DXの基本概念から実施における課題、事例、推進手順まで解説します。

自治体DXとは何か

デジタル社会の実現に向けた取り組みが政府主導で進められる中、地方自治体においてもデジタル変革は避けては通れない道となっています。

自治体DXの定義と目的

自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、地方自治体がICTやデジタル技術を活用して業務効率化や生産性向上を進め、住民の利便性を高め、行政サービスの質を向上させる取り組みです。単なる紙の電子化やシステム導入にとどまらず、デジタル技術を活用して行政サービスのあり方そのものを変革することを目指しています。

総務省が策定した「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」では、「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」を目指すビジョンを掲げています。

自治体DXが求められる社会的背景

自治体DXが急務となっている背景には、深刻な人口減少と高齢化があります。2040年問題として知られる人口構造の変化により、行政サービスの担い手が不足する一方で、行政需要は増大しています。限られた人的資源でサービスの質を維持するには、デジタル技術の活用が不可欠です。

また、新型コロナウイルス感染症の拡大は、行政のデジタル化の遅れを浮き彫りにしました。住民の生活様式や価値観の多様化により、24時間365日いつでもどこでもサービスを受けられる利便性へのニーズも高まっています。

自治体DXがもたらすメリット

自治体DXを推進することで、住民と行政の双方に多くのメリットがもたらされます。

住民の利便性と行政サービスの向上

自治体DXにより、住民は時間や場所を問わず必要なサービスを受けられるようになります。
従来は平日の日中に窓口へ出向く必要があった手続きが、スマートフォンやパソコンから24時間いつでも行えるようになります。

「書かないワンストップ窓口」の実現により、来庁時の手続きもスムーズになります。一度登録した情報を再入力する手間が省け、複数の窓口を回る必要もなくなります。

業務効率化と人的資源最適化

AIやRPAの導入により、定型的な事務作業を自動化することで、大幅な業務効率化が図れます。職員は住民対応や政策立案など、より付加価値の高い業務に注力できるようになります。

情報システムの標準化・共通化は、システム改修や運用の負担を軽減します。これまで自治体ごとに個別開発されていたシステムが標準化されることで、コスト削減と業務効率化の両立が実現します。

地域社会への貢献

自治体DXの効果は行政内部にとどまらず、地域社会全体に波及します。オープンデータの推進により、行政が保有するデータを民間企業や研究機関が活用し、新たなサービスが生まれる可能性があります。
また、デジタル化の推進は地域のIT産業振興にもつながります。地元IT企業との連携によるシステム開発や、デジタル人材の育成は、地域経済の活性化に貢献します。

自治体DXが進まない主な要因

自治体DXの必要性やメリットが理解されていても、実際の推進は容易ではありません。

リソース不足の現実

多くの自治体、特に小規模な市町村では、DX推進に必要な予算や人材の確保が大きな課題です。総務省の調査によれば、地方公務員の総数は、平成6年のピーク時と比較して約48万人(約15%)減少しています。

日常業務に追われる中、DX推進に必要な「業務の見直し」「システムの刷新」「組織体制の改革」などに充てるリソースが不足しています。特に小規模自治体では、DX担当の専任職員を置くことすら難しい状況です。

既存システムのブラックボックス化

多くの自治体では、長年にわたり様々なシステムを導入・運用してきた結果、システムの全体像が見えにくくなっています。既存システムが老朽化・複雑化し、その機能や連携関係を理解している職員が少なくなっています。

このような状況では、新たなシステム導入やデータ連携の検討が難しくなります。システムの刷新には多大なコストと時間がかかるため、「動いているものを変えない」という消極的な姿勢につながりがちです。

組織内の保守的な意識

長年の慣習や業務プロセスを変えることへの抵抗は、DX推進の大きな障壁です。特に紙文化や対面主義が根強い組織では、デジタル化への抵抗が強い傾向があります。

「今までのやり方で十分」「新しいシステムについていけない」という不安や、「自分の仕事がなくなるのでは」という懸念が変革を妨げることもあります。

デジタル人材の確保・育成の困難さ

自治体DXを推進するためには、デジタル技術に精通した人材が不可欠です。しかし、多くの自治体ではそうした人材の確保・育成が大きな課題となっています。

総務省の調査では、DX推進担当部署の職員数が0人または1人の市区町村が全体の12%に上ります。民間企業との人材獲得競争も激しく、デジタル人材の市場価値は高騰しています。

先進的な自治体DX事例

こうした課題がある中でも、創意工夫によりDXを推進している自治体は全国に数多く存在します。成功事例から学ぶことで、DX推進のヒントが得られます。

【北海道北見市】「書かないワンストップ窓口」の実現

北海道北見市では、窓口手続きの効率化を目指す職員からの提案により「書かないワンストップ窓口」を実現しています。住民は窓口で申請書を書く必要がなく、職員が聞き取った情報を端末に入力し、出力された申請書に確認の署名をするだけで手続きが完了します。

2011年に税務部門で実証を開始し、現在では住民異動や戸籍届などに伴う多くの手続きをワンストップで受け付けています。関連手続きもリスト化されるため、住民は窓口を回らず一か所で複数の手続きが完結します。市と地元ベンダーで開発したこのシステムは2024年3月時点で全国36の自治体で採用され、著作権利用料は市の歳入にもなっています。

受付の集約により業務時間が削減でき、職員からも「やって良かった」という声が挙がっています。単なるシステム導入ではなく、業務プロセス全体の見直し(BPR)を伴うことで大きな効果を発揮した好例といえます。

【宮崎県都城市】LINEを活用した問い合わせ対応

宮崎県都城市では、市民からの問い合わせ対応にLINEのチャット機能を導入し、業務効率化を実現しています。従来は電話での問い合わせが6割を占めていましたが、市民は開庁時間内に電話する必要があり、職員も何度もかけ直す手間がありました。

LINEを導入することで、時間にとらわれず写真やURLも簡単に共有できるようになりました。市民と職員双方にとって利便性が大幅に向上し、問い合わせから解決までの時間短縮にも貢献しています。

身近で使いやすいLINEを積極的に活用することで、導入負担を抑えつつも市民サービスの向上を実現した事例です。デジタルツールの中でも住民に馴染みのあるものを選択することで、利用ハードルを下げる工夫がされています。

【富山県】生成AI・マルチモーダルAI活用

富山県では、ChatGPTといった生成AIや言語、画像、音声、動画などの多様な情報を扱うマルチモーダルAIを活用し、自治体職員の業務効率化・働き方改革を推進するための実証実験を行いました。

具体的には書類のデータ化、書類検索、データ活用の3プロセスについて検証を実施。AI技術により庁内の膨大な文書から必要な情報を素早く検索・抽出できるようになり、職員の調査時間が大幅に短縮されました。また、会議録作成も自動化され、より創造的な業務に時間を割けるようになっています。

この取り組みは「一歩先の自治体DX」として注目され、単なる「書類DX」から業務のあり方から見直す「業務DX」への転換を目指しています。最新技術を積極的に取り入れることで、従来では難しかった高度な業務効率化を実現した好例です。

自治体DX推進の手順

自治体DXを効果的に推進するためには、段階的なアプローチが重要です。

DXの認識共有と機運醸成

DX推進の第一歩は、組織内での認識共有と機運醸成です。首長や管理職がまずDXの意義や必要性を十分に理解し、リーダーシップを発揮することが求められます。

大阪府豊中市では、市長自らが「とよなかデジタル・ガバメント宣言」を発出し、庁内外へDXへの取り組みを強く表明しています。職員向けのDX研修や勉強会を実施し、デジタル技術の可能性や具体的な活用事例を学ぶ機会を設けることも効果的です。

全体方針の決定と推進体制の整備

全体方針には、DX推進のビジョンと工程表を含めます。短期的に実現できることと中長期的に目指す姿を明確にし、具体的なロードマップを描くことが重要です。

推進体制では、CIO(最高情報責任者)を中心に、全庁的・横断的な組織体制を構築します。多くの自治体では副市長や副知事がCIOを務めていますが、専門知識を持つCIO補佐官を外部から招聘するケースも増えています。

BPRを通じた業務プロセスの根本的見直し

自治体DXの本質は、単なるデジタル技術の導入ではなく、業務プロセス全体の見直し(BPR)にあります。既存の業務プロセスをそのままデジタル化しても、十分な効果は得られません。

まずは業務の流れを可視化し、非効率な部分や不要な作業を洗い出します。住民にとって何が便利で使いやすいかを考え、内部業務よりも対住民サービスを起点に見直すことで、真に効果的なDXが実現します。

段階的なDX施策の実行と効果検証

DX施策は一度に全てを実行するのではなく、段階的に進めることが重要です。小さな成功を積み重ねながら、徐々に範囲を広げていくのが効果的です。

まずは比較的取り組みやすく、効果が見えやすい施策から着手します。実施後は必ず効果検証を行い、改善点を次の施策に活かします。数値化できる指標(KPI)を設定し、定期的にモニタリングすることで、PDCAサイクルを回していきます。

まとめ:これからの自治体DXに向けて

自治体DXは、単なる流行りの取り組みではなく、人口減少社会における持続可能な行政運営のために必須の変革です。住民サービスの向上と業務効率化を両立させ、限られた資源で最大の効果を生み出すためには、デジタル技術の活用が不可欠です。

リソース不足や人材確保の壁は、都道府県と市区町村の連携や、外部人材の活用などによって克服できます。重要なのは、「住民のため」という原点を忘れないことです。住民目線でサービスを見直し、真に必要とされるデジタル変革を進めることが求められています。